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3-2 日本における植物工場の現状

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3-2-(1). 参入事例

2009 年時点で、完全人工光型、太陽光利用型を合わせると、全国で約50 か所の植物工場が稼働中であることが報告されています。その中で、34 か所は完全人工光型の植物工場であり、その多くは葉菜類の生産を行っています。太陽光利用型に関してもほとんどが葉菜類中心であり、イチゴや花卉類の栽培を行っている施設は一部です。大規模な植物工場も増えてきており、たとえば兵庫県県三田市と茨城県つくば市でJFE ライフ株式会社が運営する太陽光利用型植物工場は、栽培面積は合わせて約14,340 m2、30,200 株/ 日もの生産力を誇ります。完全人工光型では、株式会社フェアリーエンジェルのエンジェルファーム福井は7,000 m2 で10,000 株/ 日、株式会社スプレッドは2 つの工場を合わせた25,200 m2 で18,000 株/ 日、さらにキユーピー株式会社がTSファーム白河で1,390 m2 に対して4,500 株/ 日、有限会社アーバンファームでは1,200 m2 の中で、1,100 株/ 日の生産量があります。

 

全国の主な植物工場施設
全国の主な植物工場施設

3-2-(2). 市場の動向

植物工場市場は2016 年度以降、大規模工場時代に突入すると予測されています。フレキシブル生産ラインの実用化の他、多品種化や高付加価値製品、さらにはワクチン生産への応用など超高付加価値製品の生産も本格化すると予測されています。また、市場は国内だけでなく、中東や中国、ロシア向けを中心に技術の輸出も本格化するものと考えられま

す。

植物工場事業のプレーヤーは多岐に渡っており、植物工場事業を専業とする企業のほか、鉄鋼メーカー、セキュリティサービス企業、光学機器メーカーなど異業種からの参入も急増しています。すでに植物工場事業へ参入した企業の例を挙げると、建設事業では、鹿島建設株式会社、大成建設株式会社、清水建設株式会社などの大手ゼネコン、商社としては丸紅株式会社、株式会社みらいを筆頭とした専業のベンチャー企業も立ち上がっています。また、第1 章で紹介した株式会社M 式水耕研究所は40 年前から蓄積した水耕栽培システムのノウハウを活かして、大型から小型まで植物工場システム販売を展開しています。その他、植物工場の施設販売としては、エスペックミック株式会社やキユーピー株式会社、株式会社フェアリーエンジェル、日本アドバンストアグリ株式会社なども実績を伸ばしています。丸紅株式会社は、有機土壌を用いた植物工場事業に参入していますが、2010 年6 月には店舗等に設置できる小型の植物工場施設のレンタル事業を開始したと発表しています。使用される資材の販売においては、照明メーカーの岩崎電気株式会社が開発した高圧ナトリウムランプ、昭和電工株式会社が開発したLED、さらには三菱化学株式会社が開発した太陽電池など、各メーカーが開発・製造した関連機器がそれぞれ植物工場に導入され、実際に使用され始めました。その他にもエアコン関連やクリーンルーム、制御装置メーカーなど、大企業から中小企業までさまざまな分野の企業が、さまざまなかたちでこの分野に参入しているのです。

 

3-2-(3). ビジネスモデルは成り立つか

これまで見てきたとおり、植物工場を取り巻くビジネスとしては①植物工場のシステム開発と設計・構築、②植物工場での生産と生産物販売の大きく2 つに分けられます。

まず、骨組みとなるのは、植物工場の運営をしながら生産物を販売していくモデルになります。第1 段階としては、生産物を外食企業や中食企業、スーパーなどの小売店に流通させるというビジネスがあり、消費者はそれらを通じて生産物を口にします。

一方、植物工場のビジネスモデルの中でもう1 つ重要な位置を占めるのが、植物工場を建築するビジネスです。資材の供給元は、植物工場を運営する企業・生産者にとっては、収益性を確保するために重要な要素になります。ここでは、生産物の種苗や肥料、水耕栽培用の設備、栽培ラックや消耗品といった農業資材、空調、各種センサーや照明、ポンプ、管理用コンピューター、場合によっては作業ロボットなどの電子機器、電気やガスなどの提供を行うというビジネスが考えられます。サービスが多岐に渡るため、もちろん1 つの企業がこれらすべてのサービスを提供するのは困難です。このギャップを埋めるのが、ゼネコンや建築メーカー、専門企業です。彼らは資材供給側と植物工場の運営企業・生産者の間を仲介・コーディネートして、植物工場の運営者へシステムを販売します。1 つのシステムごとに売り抜けるのではなく、植物工場の運営に必要な資材類については、植物工場の運営者が供給元から直接購入することも考えられますが、コーディネートを行う企業が一括して流通させることも可能です。こうすることで、供給元としては販売後も安定した収益が見込めるようになります。また、異業種からの参入が続いていることもあり、いかにして植物工場システムを運営していけばよいか、また栽培管理を行っていけばよいかということにアドバイスを行うことも重要なサービスになってくると考えられます。

2009 年については国からの補助金もあり、建設市場も大いに盛り上がったのですが、これはあくまでもビジネスモデルの外部からの資金流入があったからであり、いかに野菜を購入してもらうか、という観点がややもすると抜けてしまうことがあります。植物工場の運営者や外食・中食・小売企業だけでなく、資材供給メーカーやゼネコン、コーディネーターが末端のユーザーのことを常に念頭に置かなくては、ビジネスモデルは成り立ちません。現在、露地栽培の野菜よりも5 割程度割高になっている植物工場野菜の価格ですが、その原価構成としては1/4~ 1/3 が減価償却費、同じくらいの割合で電気代・人件費等のランニングコストが含まれています。すなわち、いかにこれらのコストを縮減できるシステムをつくれるか、あるいはより高付加価値な消費を生産できるかが、植物工場の運営者や外食・中食・小売企業の収益につながり、ビジネスモデル全体の成否を左右するのです。収益性を確保するための勝負はこれからといえるでしょう。

植物工場事業のプレイヤー
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