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1-3 土がなくても野菜はできる

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農業というと、やはり畑で作物を育てるもの、というイメージがありますから、「土がなくても野菜ができる」と聞くとぎょっとする人も多くいらっしゃることでしょう。実際には、すでに市販されている野菜の中にも、水耕栽培で育てられたものが多くあります。たとえば、スーパーなどに並べられている糸三つ葉(青三つ葉)のほとんどは水耕栽培で育てられています。また、カイワレダイコンなども水耕栽培で育てられたものとして有名です。今、水耕栽培という手法は、さまざまな野菜に使われ始めています。水耕栽培と呼ばれる技術はどのようなものなのでしょうか。

 

1-3-(1). 水耕栽培のタイプ

水耕栽培は、必須元素を無機イオンのかたちで溶かした養液で与えながら、根に酸素を送り込むことで、植物にとって必要な根圏の環境を整える手法です。水耕栽培にはいくつかの手法があり、それぞれ別の方法でこれらの環境を整えています。

大きく、培地を用いないタイプと、培地を用いるものに分けられます。培地を用いないタイプとしては、薄膜水耕法(Nutrient Film Technique, NFT)や湛液水耕法(Deep Flow Technique, DFT)があります。NFT では緩やかな傾斜を付けたパネル上に薄く養液を流し、根が酸素に触れる状態で栽培する方法です。また、DFT は、養液をためた水槽内に空気を送り込み、養液に酸素を溶かし込む方法です。いずれも養液はポンプで循環させながら、新たに植物が吸収した分だけの養分を加えていきます。一方、培地で育てるタイプでは、岩石を熱して繊維状にしたロックウールやバーミキュライトなどの無機物の培地、ヤシガラやピートモスなどの有機物を用いた培地に養液を含ませて植物を育てます。土に近い形状の培地を使用しますが、これらの培地には養分は含まれないのでいわゆる土耕栽培とは異なり、水耕栽培に属するものです。この場合は、培地の通気性が高いために、根が酸素に触れやすく、呼吸が阻害されません。養液は、点滴方式で与えていきます。

 

水耕栽培法の様々な装置
水耕栽培法の様々な装置

1-3-(2). 水耕栽培のメリット・デメリット

水耕栽培では、肥料濃度、pH、液温などを自在にコントロールすることができるため、栽培に適した条件を特定できれば連作障害を起こすことなく作物を栽培することができます。根もストレスなく養分を吸収できるため、通常の露地栽培よりも生産性が高まります。また、土を使わないで栽培ができるため、害虫や微生物の混入の可能性も小さくなり、より清潔な環境でかつ農薬を低減して野菜を育てることができます。さらに、畑を耕したり畝を立てたり、あるいは施肥をしたりといった重作業が不要となるため、作業者の負担も軽減することができます。

一方で、どの植物に対してどのような水耕液の条件がよいのか、またどの程度酸素が水に溶けていればよいかなどが調べられていない植物も多くあるために、栽培できる品目は限られています。特に根菜類については水耕栽培での生育はほとんど例がありません。水耕栽培でどのような作物が育てられるか、さまざまな研究機関で実験が進められています。

 

1-3-(3). 国内の水耕栽培

現在、ハウス栽培や温室栽培のように植物を育てる環境を調節して培する、いわゆる施設園芸が国内でも盛んに行われており、平成19 年には50,608 ヘクタールもの規模になっています。このうち、水耕栽培が占める面積は1,686 ヘクタールであり、施設園芸全体のわずか3.3%程度と割合としてはまだまだ少数派です。しかし、植物工場をはじめとする水耕栽培の面積は今後も増加することが予想されており、平成17年の統計と平成19 年とを比較すると、施設園芸全体の面積が減少している一方で、水耕栽培の面積は増加しています。

現在、水耕栽培で栽培されている作物としては、レタス・サラダ菜・小松菜・ホウレンソウ・ミツバといった葉菜類、イチゴ・パプリカ・トマトなどの果菜類、花卉類などが挙げられます。このうち、トマトとイチゴが最も多く栽培されており、水耕栽培全体の約70%を占めます。

記憶にある方もいらっしゃるかもしれませんが、1985 年に開催されたつくば万博では、水耕栽培で育てたトマトが1 本から1 万個の実を付けたとして大きな話題を呼びました。水耕栽培の技術は、土での生産が難しい地域の農業や、宇宙空間での食料生産などにも応用される可能性があり、現在も多くの研究が進められています。

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塚田 周平/Shuhei Tsukada 執行役員 東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻修了 博士(農学) 上級バイオ技術者 【専門分野】農学、分子生物学、土壌微生物学 設立初期よりリバネスの運営に参加。教育・研修事業、各種ライティングに関する実践を学んだ後、アグリ分野の先進技術開発・導入、地域創業エコシステム構築事業の立ち上げを行う。

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