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1-1 農業技術の発展と歴史

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近代の農業技術は、作物育種、農薬・肥料の開発、灌漑技術などをもとに大きく発展しました。そして、今、水耕栽培を基礎として発展してきた植物工場の技術は、農業の歴史に新たな1 ページを加えようとしています。

 

1-1-(1). 育種と栽培の技術

よい野菜とは何でしょう。ここでは、味がよい、栄養価が高い、収量が多い、保存性がよい、病気や害虫に強いといった、人間にとって都合のよい性質をもつ野菜を指すこととします。これらの性質は、野生の植物が元来持っていたのではない場合がほとんどです。すなわち、現在私たちが食している野菜は、先人たちが長い年月をかけてよい性質を持った品種を選んだり、よい性質を持った植物同士をかけ合わせたりした結果、原種とは大きく異なる性質を持つ今のような野菜になったのです。これを「育種」と呼びます。

トマトを例にとって考えてみましょう。トマトの原種は中南米にあったナス科の植物です。緑色で粒も小さく、観賞用としてヨーロッパに渡りました。ヨーロッパで育種がくり返された結果、赤くみずみずしい現在のかたちになったのです。また、日本では江戸時代の寛文年間頃に長崎に伝わったのが最初とされていますが、導入当初はあまり定着しませんでした。しかし、長い期間をかけて育種をくり返し、日本人の好みに合う味のものが選ばれ、現在では糖度の高い「桃太郎」などの品種が広く親しまれています。

テオシンテと現在のトウモロコシの模式図
テオシンテと現在のトウモロコシの模式図

トウモロコシも同様で、原種はテオシンテと呼ばれる南米のイネ科植物といわれていますが、このテオシンテは粒の数も少なく、みなさんが想像するトウモロコシとはまったく違ったかたちをしています。トマトと同様に何千年にも渡って人間の手で育種が行われた結果、粒の数も多く食べやすいかたちになりました。このように、優良な品種の性質を集めて育種をくり返すことによって、私たちが現在食べている野菜がつくられてきたという歴史があります。

育種だけでなく、土壌の環境にもさまざまな工夫が凝らされてきました。そのひとつが肥料です。植物の生育には水と光だけでなく、根から吸収される養分が必要です。同じ場所で作物を育て続けるとその土地がやせてしまうこと、そして人や家畜の糞尿、草木の灰などを農地に加えることで足りなくなってしまった養分を補えることを人類は経験的に学んできました。適切な肥料をまくことは、継続的な農業には欠かせません。近代に入り植物に必要な養分が明らかになってくると、窒素やリン酸、カリウムなどの必須養分を化学的に合成した無機肥料が開発され、収率は劇的に向上しました。

世界の穀物生産量

1-1-(2). 躍進した20 世紀の農業

これらの集大成として有名な事例が、1940 ~ 60 年代のいわゆる「緑の革命」です。イネやコムギ、トウモロコシなどの高収量品種とともに、化学肥料の多投、先進的な灌漑技術、農薬による病害虫の抑制技術を発展途上国でも導入することで、全世界の穀物生産量は1960 ~ 85 年の間に約2 倍へと飛躍的に上昇しました。

もう1 つ、安定的な生産に貢献した技術として、施設園芸が挙げられます。それまでの農業は、作物を自然の気象条件のもとで栽培する露地栽培で行われてきましたが、それでは作物の生育に適した時期にしか栽培できず、毎年の収量も天気や台風などの気象条件に左右されてしいます。そこで、ビニールハウスやガラス室を利用して温度を調節する施設園芸が考案され、栽培できる時期が大幅に広がりました。特に、冬季の日照時間が少なく、冷え込みも激しい北欧地域などで、環境を調節する技術が徐々に蓄積されていきました。

 

1-1-(3). 次世代型農業、植物工場

肥料を溶かした養液を利用する水耕栽培法は、土を使わずに閉鎖空間で栽培を行うことができるため、連作障害や土壌の流出など、従来の農業が抱えていた問題を回避できる可能性があります。実際に、連作障害を解決することで周年栽培が実現し、生産性を増大させることができます。そして、1990 年代に入って普及し始めたのが施設園芸と水耕栽培を組み合わせた植物工場です。これまでの養液制御、温度制御に加えて光環境も制御要因として加え、地上部の光、温度、湿度、二酸化炭素、地下部の培養液組成、温度環境などを制御することによって、季節や場所にかかわらず年間を通じて作物にとって最適な環境を維持し、連続的に生産することが可能になりました。また、栽培棚を多段にすることで単位面積当たりの収穫量を何倍にも向上させることができます。水耕栽培を高度に集約することによって、驚くべき効率を実現することができるのです。

2050 年には地球人口は90 億人になるといわれており、人類が持続的成長を続けることは食料生産の観点からも難しくなってくると言われてます。いかに生産効率のよい「農地」を確保するかは、大きな課題となっているのです。気候変動や土壌環境に影響されない植物工場は、人類の食料生産を支える重要な技術になる可能性を秘めています。さらに、現在の日本は、農業の担い手不足という深刻な問題も抱えています。その点についても、植物工場は少人数で管理することができることから、今後の日本の食料生産において重要な技術になることが考えられます。通年で安定的に、かつ安心安全な質の高い作物を生産できるという点は、食産業にとっても大きなメリットとなるでしょう。

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