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2-2 活用されるテクノロジー

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植物工場内では光、温度、湿度、CO2 濃度、培養液をコントロールする必要があります。そのために栽培装置、空調装置、光源装置、自動制御、種まきや包装機械などさまざまな工業品や機械が利用されています。ここでは、これまで日本の産業で蓄積されてきた技術が数多く生かされています。植物工場において重要なテクノロジーについて着目し、その

例を見てみましょう。

 

2-2-(1). 光環境の制御技術

植物工場において、植物にとって光合成を行うためのエネルギーとなる光をどのように照射するかは、最も大きな命題の1 つといえます。それは、植物の生育に大きく影響するのと同時に、どのような光源を使用するかはランニングコストを大きく左右するためです。

光とは、電磁波のうち目に見えるもの、いわゆる可視光線と呼ばれる、波長がおよそ360 ~ 750 nm の範囲にある電磁波のことを指します。この範囲の光にはさまざまな色に見える光があり(紫= 380 ~450 nm、青= 450 ~ 495 nm、緑= 495 ~ 570 nm、黄色= 570 ~590 nm、橙色= 590 ~ 620 nm、赤= 620 ~ 750 nm)、普段はこれらの光が混ざって白色に見えるのです。私たちが生活に使用している照明は、蛍光灯や白熱電球、高速道路のトンネルなどで見られる高圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプなどさまざまです。また、ここ最近はLED 照明が市場に流通し始め、近い将来有機EL を利用した照明ができると考えられています。これらの照明は、いずれも光源に電気エネルギーを与えることであまったエネルギーが光として放出される、という方式で発光しているものですが、照明の種類によって少しずつ光の性質が、つまりどの波長(=色)の光がどれくらいの割合で含まれているのか、という性質が異なるのです。

植物は、クロロフィルと呼ばれる色素によって光のエネルギーを受け取り、光合成に利用しています。高等植物の場合は、440nm 付近の青い光と660nm 付近の赤い光を光合成に利用します。緑色の波長を持つ光はあまり利用せず反射されていて、そのため多くの植物は緑色に見えるのです。また、フィトクロムという色素によって550 ~ 720 nm の波長の光が吸収されており、植物のかたちをつくる際に重要な働きをしています。したがって、植物を育てる人工光としては、特に赤色と青色を効率よく発光できる、ということが重要になります。

もともと、日本の電機メーカーは、白熱電球をはじめとしてさまざまな照明を開発してきました。その技術開発をベースとして、各照明メーカーは既存の家庭用照明や公共用照明を応用・改変することで、植物育成用の照明を作製してきました。さらに、近年では液晶のバックライトや公共用照明の新たな光源が次々に開発されており、今後はその応用も期待できるでしょう。当初、植物育成用には発光効率の高い高圧ナトリウムランプがよく用いられていましたが、青と赤の光が少ない点、また赤外線を多く含み高い熱が発生するため植物と距離をとる必要があるという難点がありました。最近では蛍光灯においても発光効率の高いものが登場し始め、特に完全人工光型植物工場では、蛍光灯を導入しているところがほとんどです。また、最近では液晶テレビのバックライトとして使用される冷陰極蛍光管(CCFL)や、これを植物育成用に改良したハイブリッド電極蛍光管(HEFL)、LED を用いた植物育成の照明の開発が行われています。薄型の照明にすることで、さらなる多段化が可能であり、また熱発生が少ないほど近接した光の照射が可能となるため、より強い光を当てることができます。特に、LED は単一波長の発光であり、赤色および青色のLED を使用することで、電力の使用効率も向上すると考えられています。そのため、将来多くの植物工場施設でLED 照明が利用されることを想定し、現在、大学・企業を中心にその開発が進められています。

 

2-2-(2). 空調技術

植物工場においては、植物にとって生育に適した気温に保つ必要があります。前述のとおり、レタスは比較的冷涼な環境を好む植物で、通年栽培を計画した場合は、常に栽培室内の温度を20 ~ 25℃程度に保つ必要があります。また、植物は気孔から水分を蒸散させることで根から水分を吸い上げます。したがって、湿度が高すぎる状態では水耕液を吸い上げることができず、十分な生育を得ることができません。また、栽培室内ではCO2 濃度を高めることで光合成を活発にしますが、ある程度栽培室内の空気を循環させることで空気の状態を室内で一定にして初めて、その効果を得ることができます。したがって、植物工場においては温度や湿度を一定に保つ空調設備、および気流の確保を行うための攪拌技術が必要になります。特に、完全人工光型植物工場においては、外界と遮断するために密封性を確保し、かつ断熱を行う必要があります。日本では、半導体の製造の際に使用されるクリーンルームの設計・建築技術や住宅の断熱、自家用車の空調技術、研究用の植物育成装置などが発達しており、これらの技術が植物工場の空調設計にも応用されていま

す。

広大な工場施設内でこれらの環境を一定にするには、通常の家庭用空調よりもはるかに大きな電力が必要となります。また、室内の温度や湿度、CO2 濃度を一定にするには、室内の気流を一定にすることが望まれます。外気の取り入れに際してゴミや塵埃が施設内に混入しないようにHEPA フィルター(High Efficiency Particulate Air Filter、粒径0.3μmの粒子を99.97%捕捉することが可能)を設置するほか、差圧ダンパーなどを利用して気流を確保し、さらに流体力学を基礎とした気流シミュレーションを行って効率的に気流を起こすようにファンを設置します。温度や湿度、CO2 濃度はセンサーによって、場合によっては複数か所で常にモニタリングされており、これらを一定に保つよう最善が尽くされています。植物から蒸散した水分に関しては、空調設備によって回収して水耕液として再利用することができ、水の循環は高度に設計できるといってよいでしょう。

太陽光利用型植物工場では、太陽光による熱量の流入があるため、制御はさらに複雑になります。空調を利用するほか、夏季等で室内温度の上昇が防げない際には、天窓や側窓を開放して熱を放散する必要が生じます。また、場合によっては遮光カーテンによって太陽光を遮る必要もあり、これらの操作を条件に合わせて行うことで、室内環境の変動が抑えられています。

 

2-2-(3). 環境制御機構

水耕液の濃度と循環、空調、光量などは、植物の状態に合わせた制御だけでなく、時間単位での制御が必要となります。たとえば、レタスの栽培では20 ~ 25℃で行いますが、24 時間に渡って同じ条件で栽培を行うと(そのように栽培を行う施設もありますが)、一般的には呼吸と光合成のバランスが崩れ、徒長といっていわゆるもやしのようなレタスになってしまいます。徒長が起こると植物の管理にも手間がかかるため、8 ~ 10 時間程度照明を落として暗期を設ける必要があります。また、暗期には根から吸収した酸素で呼吸が行われますが、18℃程度に室温を下げるとともに、水耕液の循環を抑えて呼吸にかかるエネルギーをなるべく抑える方式をとります。また、水耕液のモニタリングを行い、EC やpH を調整する必要があります。これらの作業は、小規模の施設であれば手動で行うことも可能ですが、環境制御を連動させる必要があることと、ある程度の規模になれば手間も膨大になるため、コンピューター制御のもと自動でコントロールされることが一般的です。水耕液を循環させるポンプや照明にはコントローラーを取り付け、時間単位で切り替えができるタイマーを取り付けます。また、水耕液のEC やpH については、肥料の原液やpH 調整剤を入れたタンクと連動させ、基準値を定めてそこからある程度数値がずれたらこれらの溶液を追加し、補正できるように制御されます。コンピューターで制御を行うことにより、光量やEC、pH、温度、溶存酸素量などのデータを常に蓄積し、栽培ノウハウの蓄積や異常が発生したときのチェック、フィードバックに活用することができます。さらに、近年では葉面積や光合成量、葉面温度などを測定する技術の開発も進んでおり、こういったデータを活用し、環境調節システムにフィードバックできるようになれば、より植物の生理反応に合わせた環境調節や、植物体個別での環境調節ができるようになるでしょう。

ただし、これまでのコンピューターによる環境制御では、環境をモニタリングするセンサーデバイスの種類が規格によって限られており、またセンサーデバイスを追加する場合にはシステム全体の見直しが必要になるなど、技術の浸透が進まない要因もあります。そこで、最近注目されているのがユビキタスコンピューティングによるユビキタス環境調節機構です。つまり、センサーデバイスごとに小型のコンピューターを組み込んでおき、通信技術によってこれらのデータを統合・フィードバックして環境調節に活用するという方式が考えられています。また、ウェブカメラに環境モニタリングシステムを搭載したフィールドサーバーなどの開発も進んでいますが、このような技術を応用することで、遠隔地においても複数の植物工場施設を少人数で管理できるようになると考えられます。

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