ホーム 植物工場物語 1-2 植物が育つには

1-2 植物が育つには

13108
0

水耕栽培のしくみについて説明するにあたり、まずは主役である植物にフォーカスします。植物がどのように養分を吸収して生長しているのかを理解することは、植物工場の技術を理解するためのカギになります。

 

1-2-(1). 光合成とエネルギー生産

植物に限らず、すべての生物は、生命活動を維持するためにエネルギーを必要とします。エネルギーは、炭素を含む物質、いわゆる炭水化物を分解することによって得られます。たとえば、動物では、他の生物を捕食することで炭水化物を摂取し、酸素を利用しながら分解してエネルギーを持つ物質アデノシン三リン酸(ATP)を生産します。

私たち人間も、他の生物を食べることでエネルギー生産のもととな炭水化物を摂取しています。一方で、植物は、光のエネルギーを使ってブドウ糖を生産することができます。これが光合成です。植物は、大気中の二酸化炭素と水からブドウ糖を生産し、これを分解してエネルギーを生産します。

光合成は、植物細胞の中にある葉緑体で行われます。葉緑体には、光のエネルギーを捕らえる葉緑素と呼ばれる色素があり、光エネルギーを使って水を分解しながらATP を生み出します。そのATP を使って、二酸化炭素からブドウ糖を合成するのです。そのブドウ糖は動物と同様にミトコンドリアでATP を生産する原料となります。

植物の体はタンパク質、核酸、脂質などの有機物でできており、すべてに炭素が含まれています。エネルギー源となるほかに、これらの有機物をつくる際にも、植物は光合成で得られたブドウ糖を使用します。つまり、光合成は生命に必要なエネルギーを得るだけでなく、植物体を構成するうえでも非常に重要な機構なのです。

光合成の仕組み
光合成の仕組み

 

1-2-(2). 植物は無機イオンを吸収する

このように、炭素は光合成によって植物に吸収されます。しかし、植物はそれだけでは生命活動を維持することはできません。これはすべての生き物に共通しますが、タンパク質や核酸を構成する窒素やリン、生命活動に必須なカルシウムや硫黄、マグネシウムなどの元素を吸収しなければならないのです。植物の場合、これらの元素は根から吸収することでまかなっています。

水耕栽培の原型を生み出したのは、1860 年、ドイツのザックスという研究者だといわれています。ザックスは、水耕栽培という方法を編み出そうとしたわけではなく、16 世紀から続いてきた、「植物にはどのような養分が必要か」という研究の流れの中で、根からどのような養分が吸収されているのか確かめる実験の1 つとして水耕栽培を行ったのです。

植物が必要とする元素。どれか一つでも欠けると植物が正常に育たた無い
植物が必要とする元素。どれか一つでも欠けると植物が正常に育たた無い

それまで、植物は土の中の有機物を吸収していると考えられていましたが、ザックスは水に窒素、リン、カリウム、硫黄、カルシウム、マグネシウム、鉄の元素を無機イオンとして溶かした養液でも植物が育つということ、どれか1つでも欠けると植物がうまく育た

ないということを証明しました。その後、さらに銅、亜鉛、マンガン、ホウ素、モリブデン、塩素などの元素が必要であるということがわかっています。これらは、まとめて必須元素と呼ばれています。

 

1-2-(3). 根と酸素

前項では植物が育つために必要な栄養素についてまとめましたが、根にこれらの元素を含む無機イオンを与えればそれで植物が育つか、というと必ずしもそうではありません。それは、植物の根が、養分吸収だけでなく呼吸のためにも重要な役割をしており、水に根が浸かってしまうと酸素を十分に取り入れることができなくなってしまうからです。多くの植物では根での呼吸が抑えられると、「根腐れ」と呼ばれる症状が起きます。湿地に生える植物やマングローブなどの植物は、気根や呼吸根と呼ばれる器官が発達していて、大気中の酸素で呼吸することができますが、これは例外的な性質です。健全な植物を育成するためには、十分な酸素を根に供給することが大切になります。

土壌では、必須元素を含む無機イオンが土壌中の水分に溶けており、植物はその無機イオンを吸収して育ちます。また、腐食物を多く含む土壌には団粒構造があり、空気が多く含まれています。作物が育ちやすい土とは、つまりは植物にとってバランスよく無機イオンが溶けた水を含み、また空気を多く含んでいる土、ということになります。そのような環境では、作物は健康に育つことができます。いわゆる有機農業では、有機物を多く含む肥料を与えることで団粒構造ができやすく、またゆっくりと必須元素が土壌中の水分に溶けていくため、手間はかかるものの植物にとっては理想的な環境といえるかもしれません。ただ、土壌の性質によって、無機イオンの溶けやすさや団粒構造のとりやすさは大きく異なることが知られています。そのため、農地によってどのような施肥をするのか、農地となる土壌の性質を把握し、それに合った施肥方法を採用する必要があります。たとえば、北海道、東北、関東、九州などにある黒ボク土と呼ばれる土壌では、特殊な鉱物がリン酸を吸着するために水になかなかリンが溶けず、そのままでは作物がうまく育ちません。また、砂丘未熟土と呼ばれる土壌は水はけがよすぎるため肥料成分を保つことができず、また団粒構造をとりにくいため作物を育てるのが難しいことが知られています。

団粒構造
団粒構造

返事を書く

Please enter your comment!
Please enter your name here