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2-3 最先端研究と国家プロジェクト

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ここでは、植物工場の分野ではどのような経緯で研究が行われてきたのか、そしてこれからどのような研究が行われるのかを考えてみたいと思います。その内容を知ることは、未来の植物工場を考えるうえで重要なヒントになるでしょう。

 

2-3-(1). 国内研究の推移

国内における植物工場の研究は、1974 年、株式会社日立製作所中央研究所にて開始されました。担当したのは、当時同研究所で研究員を務めていた高辻正基氏(現・財団法人社会開発研究センター理事 植物工場・農商工専門委員会委員長)です。高辻氏は、サラダ菜をモデルとして光強度、日長、温度、CO2 濃度などの条件により、サラダ菜の生育にどのような違いが出るかという研究で、最適条件ではサラダ菜の生長が5 ~ 6 倍にまで促進できることがわかりました。この研究は、それまでの研究で植物育成条件に対する規格化が行われてこなかった中で、綿密に人工環境下での植物栽培の条件が検討され、植物工場という概念の礎になったという点、新たな農業生産手法の可能性が開けたという点で、エポックメイキングな結果であったといえるでしょう。

こういった経緯から、国内の植物工場の歴史自体、研究側から始まったといえます。高辻氏の研究結果を受けて、企業や研究機関も参入を開始しました。研究機関では、主に関連性の高い施設園芸などの分野から、環境調節やその制御に関わる技術や研究が推し進められたと考えられます。1980 年代には、海外での事例研究も含め、特に環境制御という観点で数多くの研究がなされています。また、人工環境下におけるストレスと、それが植物に与える研究もなされています。1990 年代から2000 年代にかけては、インターネットの普及とともに環境制御のネットワークシステムに関する研究が進められているほか、バイオテクノロジーの発展により、葉面などの状態から植物を分析するアプローチに加え、遺伝子発現レベルでの植物の状態を把握する研究も行われています。光源に関しては、現在LED の導入が検討されていますが、高辻氏は1995 年の時点ですでにLED で植物を育成するという発想を持ち、植物工場学会誌に報告しています。その研究は、千葉大学の後藤教授などに受け継がれ、実用化に向けた研究が進められています。

 

2-3-(2) 研究発表論文数の推移から見る研究活動

植物工場の歴史が始まって以来、数多くの学術論文が発表されてきました。図は、CiNii による検索結果から、これまで国内において「植物工場」をキーワードとする学術誌や専門誌への論文あるいは記事の掲載数の推移を表したものです。1980 年代後半から植物工場を専門として扱う学会である植物工場学会が発足したため、1997 年をピークとして植物工

場に関する論文や専門書籍は年間40 ~ 50 報ほどコンスタントに発表されてきました。2000 年代の中盤に入ると、論文数は減少する傾向にあります。しかし、2009 年に入り、60 件以上の報告があることがわかります。また、掲載誌自体も多様化しており、これは2009 年度より植物工場が国家プロジェクトとして扱われるようになり、多くの注目を集めていることが要因となっていると思われます。2010 年では6 月時点ですでに件数は50 を上回っており、これまでにないペースで論文や記事が掲載されています。ここからも、この数年で植物工場に関する知見が次々に蓄積されていくことと考えられます。

 

植物工場をキーワードとする文献数の推移
植物工場をキーワードとする文献数の推移

2-3-(3). 国家プロジェクトの地域拠点

2009 年より、農林水産省と経済産業省は、大学の研究者や企業と連携して植物工場の普及に取り組んでおり、2012 年には現在稼働しているおよそ50 の植物工場の数を3 倍の150 か所にすると同時に、生産にかかるコストを3 割縮減するということを目標に設定しています。その関連予算として、農林水産省で96 億円、経産省で50 億円が普及事業や研究開発に充てられました。

その中の1 つとして、経済産業省から研究機関を対象に公募された、「平成21 年度先進的植物工場基盤技術研究拠点整備」というものがあります。この予算は、大学や公的研究機関を対象として、コスト面をはじめとした植物工場が抱える問題をクリアするためや、地域の事業者が植物工場事業に取り組む際の技術指導や人材育成、情報提供を行うための地域の拠点をつくり、これによって植物工場事業を通した地域活性化を行っていく、という事業です。この予算は、現在千葉大学大学院園芸学研究科や明治大学農学部、大阪府立大学生命環境科学研究科などの9 つの機関に交付され、事業が進められています。

たとえば、千葉大学では省エネルギーの環境制御技術や植物工場に適した作物品種の開発・育種、新規作物の栽培法の確立、新たな光源の開発など、太陽光利用型および完全人工光型の双方のシステムにおいて、民間企業との共同研究や自治体・公的研究機関との連携を進め、植物工場事業に参入する新規事業者を研究面・技術面からバックアップすることを目的としています。青森では寒冷地に適したシステムを開発・普及するモデルを構築しており、また東京農工大学や島根大学などではそれぞれブルーベリー、ワサビに品種を特定することで収益性を確保することを目指し、そのための研究開発と情報発信を行うことを目指すなど、各地域で特色のある研究開発が進行しています。これらの事業によって、より収益性が確保できる素地が整うことが期待されます。

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