農業技術の発展と歴史
近代の農業技術は、作物育種、農薬・肥料の開発、灌漑技術などをもとに大きく発展しました。そして、今、水耕栽培を基礎として発展してきた植物工場の技術は、農業の歴史に新たな1 ページを加えようとしています。
育種と栽培の技術
よい野菜とは何でしょう。ここでは、味がよい、栄養価が高い、収量が多い、保存性がよい、病気や害虫に強いといった、人間にとって都合のよい性質をもつ野菜を指すこととします。これらの性質は、野生の植物が元来持っていたのではない場合がほとんどです。すなわち、現在私たちが食している野菜は、先人たちが長い年月をかけてよい性質を持った品種を選んだり、よい性質を持った植物同士をかけ合わせたりした結果、原種とは大きく異なる性質を持つ今のような野菜になったのです。これを「育種」と呼びます。
トマトを例にとって考えてみましょう。トマトの原種は中南米にあったナス科の植物です。緑色で粒も小さく、観賞用としてヨーロッパに渡りました。ヨーロッパで育種がくり返された結果、赤くみずみずしい現在のかたちになったのです。また、日本では江戸時代の寛文年間頃に長崎に伝わったのが最初とされていますが、導入当初はあまり定着しませんでした。しかし、長い期間をかけて育種をくり返し、日本人の好みに合う味のものが選ばれ、現在では糖度の高い「桃太郎」などの品種が広く親しまれています。
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トウモロコシも同様で、原種はテオシンテと呼ばれる南米のイネ科植物といわれていますが、このテオシンテは粒の数も少なく、みなさんが想像するトウモロコシとはまったく違ったかたちをしています。トマトと同様に何千年にも渡って人間の手で育種が行われた結果、粒の数も多く食べやすいかたちになりました。このように、優良な品種の性質を集めて育種をくり返すことによって、私たちが現在食べている野菜がつくられてきたという歴史があります。
育種だけでなく、土壌の環境にもさまざまな工夫が凝らされてきました。そのひとつが肥料です。植物の生育には水と光だけでなく、根から吸収される養分が必要です。同じ場所で作物を育て続けるとその土地がやせてしまうこと、そして人や家畜の糞尿、草木の灰などを農地に加えることで足りなくなってしまった養分を補えることを人類は経験的に学んできました。適切な肥料をまくことは、継続的な農業には欠かせません。近代に入り植物に必要な養分が明らかになってくると、窒素やリン酸、カリウムなどの必須養分を化学的に合成した無機肥料が開発され、収率は劇的に向上しました。
(つづく)