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水耕栽培のフロントランナー

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水耕栽培のフロントランナー

株式会社エム式水耕研究所会長 村井邦彦

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水耕栽培から植物工場へ

その後、植物工場という話題が出てきました。植物工場の基本には水耕栽培というものがあります。この間、高辻先生(注:日本における植物工場研究の先駆者の1 人、現・財団法人社会開発研究センター理事 植物工場・農商工専門委員会委員長)と会って、「そういえば35年前にやり始めましたね」という話をしました。キユーピーさんも一緒になって盛り上げてくれました。ただ、植物工場という世界で儲かったという話は聞きませんでした。話題にはなるが経営にはならないという状況だったのです。その一方で、研究目的で取り組む方は結構いらっしゃいました。

商業目的の最初の事例は、千葉県で建設した8 階建ての植物工場でした。現在の最大規模の植物工場は、去年からやっている全10,800 m2の12 階建てのもので、京都の株式会社スプレッドさんが取り組んでいます。ここの水耕部門は私どもで担当させていただきました。それから、注目されたものとしては株式会社パソナさんが、東京都内の地下で栽培していました(現在はパソナ新社屋へ移設)。ここでは稲もつくっており、オープン時には当時の竹中平蔵大臣、小泉純一郎首相も見学に来ました。

プラントの形態にもさまざまあり、浮かせるものと、溝になっていて水を流すだけのものがあります。逆さまにトマトを育てている省力方法もあります。上でトマト、下で葉菜を育て、トマトからの水分蒸散を使った「植物クーラー」という方法もあります。ハンギングといって、トマトを逆さまにして、バリアフリーで育成できるタイプもあります。植物工場も、水耕栽培の事例の1 つなのです。壁面栽培、タンスのように引き出すかたちなど、さまざまな場所に合わせたシステムを開発しています。

植物工場の可能性

水耕栽培が植物工場の技術の1 つとして話題になってきました。それでもこれまでは、まだテスト的な段階で、私たちとしても研究目的もあり事業に取り組んできました。しかしここへ来て植物工場が話題になり、人々の関心が集まってきました。その価値が理解されるようになれば、さらに発展する可能性が出てくると考えています。

では、どういう可能性があるのか。それは、私は「魅せる」ということでないかと思います。店という場所では、「魅せる」ということがビジネスの原点であるので、今回のサブウェイさんの事例(第4 章にて後述、店産店消というコンセプトを打ち出し、店舗内に植物工場施設を置いたモデルを東京デザイナーズウィーク2009 にて展示)は今の時代にマッチしていて、昔の植物工場から大きく進化したと思います。

植物工場での栽培に関しては、いろいろなところで多くの資料が出ています。回転率、安心安全、洗わないで食べられるなどのメリットが知られています。今までの農業とは違うということです。土で行う農業に微生物はつきものです。土壌菌というものは危険もありますし、非常に扱いが難しいという面もあります。循環型の自然農法といったものも、堆肥をつくるという大変な作業があります。できた野菜がその努力に見合うだけの価値があればよいですが、そのわりには高い評価はされません。衛生面から見ても、自然農法でつくった野菜には菌がたくさんついています。

植物工場の野菜は生でそのまま食べることができます。そして、店の中で野菜を育ててその野菜を使うということは、鮮度という点でパーフェクトではないかなと思います。

さらに、鮮度に加えて機能性も要求されてきます。たとえば、ワクチンを生成する野菜などを植物工場でつくり、そのまま食べて接種できたりしたらいいなと思っています。農業という世界が、食を通じた健康面での新しい価値を発信できればと考えています。人類にとって役立つ食料をつくる必要があり、それを実現するのが植物工場ではないでしょうか。人類のために、ただ農業しているのではなく命を育てていくのだ、という気概を持って進めていこうと思います。


Creative Commons License photo credit: Lori Greig

 

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