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植物の力を最大限に引き出す~植物工場~

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さんさんと降り注ぐ太陽の光。広大な畑に育つ野菜たち。「農業」というと,思わずそんな風景を想像してしまいませんか。しかし今,そんなイメージとはまったく異なる,新しい農業のスタイルが注目されています。それが,「植物工場」。なにやら聞き慣れない,この言葉。いったいどのようなところなのでしょうか。

■畑の5〜6倍速く育つ!
植物が育つには,二酸化炭素,酸素,リン酸や窒素,カリウムなどの必須元素,鉄やマグネシウムなどの微量元素,光,水分,そして適切な温度が必要です。これまでの農業は,自然の中で作物を育てるために,天候の影響を大きく受けていました。また,台風の直撃や病気,害虫の被害も避けられません。
一方,植物工場は密閉された空間で,人工的に光や養分,二酸化炭素,気温などを,植物にとって常にベストなバランスに保つことができる施設。「環境調節工学」と呼ばれる分野の技術が生かされており,今では,熱帯雨林から砂漠まで,さまざまな環境を瞬時に再現することができるのです。
そのため,植物工場では天候や災害に左右されずに植物を育てることができます。それだけではありません。サラダ菜を使った試験では,最適な環境を整えれば,畑でつくるよりもなんと5倍から6倍も成長が速いことがわかりました。まさに,植物の力を最大限に引き出すことができる場所なのです。

■注目を集める「光」の技術
そんな植物工場で今最もを浴びているのが,「光」の技術です。通常,私たちの目には光は白く見えますが,これは無数の波長(色)の光が混ざり合っているためで,植物はこの太陽光のすべての光を利用しているわけではありません。レタスなどは無数にある太陽の光の色のうち,主に青と赤色を吸収して自身の成長に使っています。青色光(450 nm付近)は,発芽を促したり,茎が伸びすぎてしまうのを防いだりする役割。赤色光(660 nm付近)は,光合成の場である細胞内の葉緑体によって吸収され,エネルギーへと変換されます。
発光ダイオード(LED)は,ひとつの波長の光を放つため,必要な波長の光のみを照射して,効率よく植物を育てることができるだろうと考えられています。さらに,有機ELと呼ばれる次世代照明技術も同様で,植物に合わせて光の波長をコントロールできます。将来は,LEDや有機ELパネルで野菜を育てる施設が,あちこちにできるかもしれません。

■野菜は畑じゃなくても育てられる
現在,全国に約50か所ある植物工場。ここで生産されている作物には,主にレタスなどの野菜やイチゴがあります。これは,設備費や維持費など,コストがかかるという問題を抱えているため。出荷までのサイクルが短い野菜の方が,採算がとれて販路先が確保できるからです。
実際には,植物工場ではすべての作物を育てることが理論的に可能だといわれています。イネ,ワサビ,ジャガイモ,薬草類……意外なところではブルーベリー,コケ,ワクチンをつくるお米まで。コストを抑え,さまざまな作物を育てられる植物工場をつくる計画が進んでいます。南極の日本基地でもすでに導入され,将来は宇宙空間でも植物がいきいきと育つ時代がくるかもしれません。植物の力を最大限に引き出すため,日夜研究が行われているのです。

 

高校生科学雑誌「someone」 vol. 11より抜粋

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