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4-2 照明とラックから省コストに挑む~株式会社日本ディスプレイセンター~

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前章で述べた植物工場ワーキンググループでは、2012 年までに植物工場での生産コストを3 割縮減することを目指すという方針が打ち出されました。その報告書には、植物工場施設の設置にかかるイニシャルコストと、運用にかかるランニングコストの縮減について記載されています。イニシャルコストについては、現段階では施設部材メーカーが独自に技術開発を行っており、これを将来的に標準化・モジュール化することでコストを縮減することが見込まれています。また、ランニングコストについては、人件費の削減やLED などの省電力光源の導入により抑えることが可能といわれています。植物工場の将来を考える際に、まずはいかにしてコストダウンを図るかが最重要課題の1 つであること

は間違いないでしょう。

株式会社日本ディスプレイセンターは、店舗什器などの設計・設置業務に長年携わりながら、近年、他企業と連携した植物工場システムの開発にも参入しました。手がける内容は、栽培用ラックに始まり、照明や省力化に向けた開発など多岐に渡ります。そこには、きめ細やかな視点に立った、省コストに向けたアイデアが数多く含まれています。代表取締役社長の山根英治氏にうかがった、同社の植物工場事業に対するビジョンを紹介します。

 

4-2-(1) きっかけはLED

日本ディスプレイセンターは、店舗什器と販促ツールを設計・制作している会社です。ノックダウン化、軽量化を図って低コストでディスプレイ用の什器を仕上げる、ということを持ち味に、大手自動車メーカーや通信会社、電機メーカーなどから大型受注を受けるなど、業界での信頼を得ています。同社は、山根氏が大学卒業後に什器を請負で制作する会社を立ち上げたところから始まりました。その後、什器の設計業務にも着手、以来30 年以上、什器に関連する事業を続けており、多くのノウハウと、経験に基づいたアイデアを出す素地があります。

什器に使用する次世代型照明の1 つとして、山根氏はLED に以前から着目しており、同社は、LED 光源普及開発機構(平成17 年6 月1 日にLED 照明協会として設立、平成21 年7 月1 日に一般社団法人LED光源普及開発機構へ改名)に会員や理事会員として加盟していましたが、その関係で植物育成用のLED の開発を行う事業に参画したのが植物工場事業に携わるきっかけでした。その時に施設を見て、什器メーカーとしての観点から「このようなタイプの栽培ラックであればもっと安価にできる」と確信しました。しばらく経ってから、南極の昭和基地に植物工場施設を導入することが決まり、同社が現地で組み立てができるタイプの栽培ラックを設計する、という業務を受注。それをきっかけに栽培ラックの制作の依頼が来るようになりました。

 

4-2-(2) シーンに合わせた軽量栽培ラック

日本ディスプレイセンターの栽培ラックの特徴は、組立式であることと、アルミを採用して軽量化していることにあります。昭和基地の後に手がけた案件で要求されたのが、軽量化という条件だったのです。約200 坪の空き倉庫で、4 階建ての3 階部分に植物工場をつくるという案件で、建屋が古かったため床の補強まで行うことができず、通常のスチールでは床の耐久性を鑑みて導入できないだろうということが考えられました。また、長さが約18m、その両端での高さの誤差を± 2mmに収めるという高い要求があり、そこでアルミ資材を採用し、溶接することなく、簡単にボルトとナットを締めるだけの工程で栽培ラックを制作できるシステムを考案し、それを導入しました。この案件で開発したラックは組み立て式であるため、サイズの変更や細かな高さの調整が自由自在で、使用されるシーンに合わせて設計することが可能です。同様の案件を扱っている間に、社会的に植物工場事業への期待が高まり始めました。同社が制作する組み立て式の多段式ラックは、今後ニーズが高まると考えられます。

また、もともとのきっかけであった、植物育成用のLED 照明についても、現在開発が進められています。LED 光源普及開発機構の会員1社とともに、植物育成用の赤色・青色LED の開発を行うプロジェクトが進んでいます。植物育成用のLED 照明はパネルタイプが主流ですが、日本ディスプレイセンターが開発を行うのは、パネルではなくバータイプで、より低コストにした光源の開発を進めており、他社から開発を請け負うかたちで進行しています。また、LED の入手経路も、ネットワークを生かしてなるべく安価なものを使用できるよう、海外メーカーへの手配が開始されました。既存のLED より発光効率がよくて発熱も少ないものがあれば、植物工場用として有望です。

また、日本ディスプレイセンターはキノコ工場のLED 照明設計の依頼も受けています。キノコの場合も野菜ほどの光量を要しますが、その光源として460nm の波長を持つ青色LED が必要で、これも高価なものです。しかし、導入コストをかなり安価に抑えられる算段が立ち始めているので、キノコ工場も実現すると考えられています。ここでの経験も将来植物工場にLED 照明を導入する際のノウハウにも発展するでしょう。LED の欠点は1 つ、電源装置が必要であることです。LED そのものは最低でも4 万時間の寿命がありますが、電源装置には1 年半ほどで使えなくなるものもあり、また、電源装置から妨害電波が発生した例もあります。現在のところ、LED にはJIS 規格がまだありませんが、今後広まればJIS 規格ができ、こういった欠点も解決されていくと思われます。

 

4-2-(3). コストダウンを推し進める

現状では大量生産を行う植物工場でも採算を取ることが難しく、より効率化と低コスト化を、イニシャルコストとランニングコストの双方について推し進めていく必要があります。露地栽培の野菜とほとんど変わらない価格まで下げられれば、植物工場も高いパフォーマンスを発揮するでしょう。おそらくそれは可能であると、山根氏は考えています。安

全だから高いというのはやはり今だからこそ通用することで、将来は安全でなおかつ安いというものを消費者が求めるでしょう。

コストの削減に向けて、山根氏の発想はラックや照明だけにとどまりません。空調費の低減のために、熱効率の向上に向けた設計や、植物の栽培時に扱う資材やシステムまでにも発展しています。水耕栽培に使用する植物を浮かべるためのプールとフロートの構造を工夫するだけで、作業性が格段に向上すると考えています。

植物工場の野菜では人件費が生産費に占める割合も高く、自動的に作業を行うことができるロボットなどの導入により、作業を行う人員の人件費を抑えるということが考えられています。一方で、機械化を進めるとイニシャルコストが高くなり、減価償却費として生産費に跳ね返ってしまいます。そのために、機械化をせずとも効率が上がる方法が強く望まれているのです。

山根氏は、将来的には植物工場の事業を会社のよりメインの事業として進めていきたいと考えています。最終的には自社でも植物工場を持ちたいというのが、山根氏の希望です。レタスだけではなく、もっと目新しい作物にも挑戦し、今後市場を広げることができる将来性のある作物を、コスト削減とともに実現できれば、今までにない生産のかたちを創ることができるでしょう。日本ディスプレイセンターの本社には、これまでに制作した什器が並ぶ中、興味を引く製品サンプルがいくつもあります。「アイデアが出たら、まずは試してみる」と語る山根氏からは、植物工場システムがさらにスリム化し、発展していく可能性を感じることができます。

 

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