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3-1 植物工場の歴史

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3-1-(1). 欧米から始まった歴史

北欧地域では、冬季の日射量が少なく露地での作物の栽培効率が低いという背景があり、早い時期から施設園芸が高度化していました。歴史的には、1957 年にデンマークにあるクリステンセン農場でクレスというカイワレによく似た野菜の一貫生産が開始されたのが、世界で初めて植物工場開発に取り組んだ例として広く知られています。この時代には、植物工場という考え方で捉えられたかは定かではありませんが、ここでは、いわゆるスプラウトと呼ばれるジャンルの野菜で、発芽から育成(冬季はランプ補光を行った)、収穫、包装、低温保存までを一連の工程で行い、1 週間で出荷を行う、まさに工業的生産と呼ぶにふさわしい生産システムを採用していました。1980 年にはオーストリアのルスナー社が、53 階建てのタワー型の温室を設置しており、都市型農業のひとつの形態として大きな注目を集めました。また、米国のゼネラルエレクトリック社やホイタッカー社、スウェーデンのスエグロ社などが工業的生産に取り組みました。しかし、いずれの施設も現在は閉鎖しており、このことは収益モデルが成立しなかったということを示しています。

 

3-1-(2). オランダにおける施設園芸の発展

オランダでは、ここ30 年で施設園芸が大きく発展してきました。日本国内では植物工場というと採算が取れないというイメージを持たれる場合が多いのが実際ですが、高度に発達したオランダの施設園芸は、「太陽光利用型植物工場」ともいえます。完全人工光型植物工場と並列で語ることはできませんが、オランダにおける施設園芸の発展の要因を見ることで、植物工場の今後の発展を考えるうえで重要なヒントをいくつも得ることができます。

オランダには、現在約200 万ヘクタールの農地があり、このうち施設園芸が占める面積は約1 万ヘクタール、0.5%程度しかありません。その一方で、施設園芸による生産額は年間70 億ユーロ、農業生産額全体の40%を占めており、オランダにとっても要といえる産業のひとつとなっています。施設園芸において栽培される品目は、トマト・パプリカ・キュウリなどの果菜類、バラ・キク・ユリなどの花卉類です。このうち、トマトについては1980 年からの30 年で30 kg 程度であった単位面積当たりの生産量が60 ㎏程度に、キュウリについては約40 kg から80kg 弱へと増加しており、いずれも約2 倍の生産効率となりました。日本でのトマトの単位面積当たりの生産量は1980 年には20 kg 程度と、その頃のオランダとほぼ同等でしたが、現在でも日本の生産量は同水準で、ここ30 年で生産効率については大きく水をあけられたことになります。この背景には、適切な品種の選択と生産手法の改善があります。ロックウールによる水耕栽培の普及と、ガラスの透過性の改善や葉面積のコントロールによる光利用効率の向上、CO2 濃度や湿度・温度の管理の徹底を行うことで、生産効率を上げることが可能となりました。また、ロボット・コンピューターを用いて省人省力的な施設管理を行うことができるようになったことも効率化につながっており、事実、施設園芸の生産者あたりの経営面積は、1990 年当時の0.68 ヘクタールから2007年には1.4 ヘクタールと倍以上に拡大しています。品種については、ロックウールでの栽培に適した品種の作出などが行われました。栄養状態がよい場合には、葉や茎などの生長が盛んになり、果実の生長が悪くなる場合がありますが、水耕栽培で生育環境がよい場合でも、果実の生長が妨げられない品種を選抜することで、生産効率を向上させることができます。さらに、オランダでは栽培アドバイザーによるコンサルティングサービスが充実しており、作物の管理も行き届いているのです。

2008 年の世界的経済危機によって野菜の価格が世界的に下落したことから、ここ数年は経営難に苦しむ生産者がいるようですが、生産効率の向上により、大きな成長産業となっているのです。

 

3-1-(3). 日本の歴史とブーム

日本の植物工場の研究が、株式会社日立製作所中央研究所において始まったことは、前章において述べました。それ以降、植物工場に対する期待は、何度も浮き沈みを見せています。70 年代後半には、協和化学工業株式会社(現・協和株式会社)が「野菜工場」として水耕栽培への参入を行っていますが、まだ注目度は高くはありませんでした。その後、1980 年代中頃から植物工場の第1 次ブームが到来しました。1985 年には、ダイエーららぽーと店の野菜売場奥に植物工場が、つくば科学万博では回転式レタス工場が展示されています。またバイオ産業自体も注目度が高く、地方の第3 セクター、キユーピー株式会社、三菱電機株式会社をはじめとした大手企業が事業参入に取り組む姿勢を見せたことにより、植物工場が大きな注目を集めました。

そして1990 年代前半から後半にかけて、国が「先進的農業生産総合推進対策事業」を導入したことで企業の参入が促進されました。この時期に参入した企業として有名なのはキユーピー株式会社で、自社での生産工場を建設するとともに、特徴的な三角形の栽培パネルと噴霧式での養液噴射、独自の照明設備などを「TS ファームシステム」としてパッケージ化し、システムの販売と栽培指導を開始しました。これらの施設は現在でも稼動しています。また、農業生産とは無縁だったいくつかの企業も事業に参入しました。これが第2 次ブームです。

2010 年現在、植物工場の第3 次ブームが到来しています。LED をはじめとする光源の技術の革新、それに付随するエネルギー効率の改善などを背景に、産業としての植物工場が注目を集めているのです。これに先立ち、2000 年代前半から株式会社ラプランタや株式会社フェアリーエンジェル、株式会社スプレッド、小津産業株式会社などが植物工場事業に参入していました。いずれも蛍光灯を用いた多段式の完全人工光型植物工場であり、2009 年1 月には、経済産業省と農林水産省が農商工連携研究会植物工場ワーキンググループを立ち上げ、さらにその成果を受けて、2009 年度には両省合わせて150 億円もの補正予算が組まれました。今回の第3 次ブームは、過去に類を見ない注目度といってよいでしょう。図は、これまでに日本経済新聞の紙面に植物工場をキーワードとして掲載された記事の数を年ごとに示したものです。これまでにブームといわれた時期でも、記事数は年間70 記事程度が最多でした。しかし、2009 年には200 を超す記事が掲載されており、2010 年も6月現在で150 記事に迫る勢いです。これまでに日本がトップを走ってきた工業の先行きが不透明な中、植物工場が大きな期待を集めていることの現れともいえるでしょう。

植物工場をキーワードに含む日本経済新聞の記事数推移
植物工場をキーワードに含む日本経済新聞の記事数推移
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塚田 周平/Shuhei Tsukada 戦略開発事業部 部長 東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻修了 博士(農学) 上級バイオ技術者 【専門分野】農学、分子生物学、土壌微生物学 設立初期よりリバネスの運営に参加。教育・研修事業、各種ライティングに関する実践を学んだ後、先端技術を産業化する事業を展開し、地域産業への貢献を目指している。

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