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2-1 植物工場って、何?

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食料自給率の低下や食への不安など、食に関するさまざまな関心が集まる今、施設内で環境条件を制御し、農作物を生産する「植物工場」に注目が集まっています。工場という名称で呼ばれるのは、第1 章で述べたような植物が育つ環境を綿密に調節することで、ある程度自然環境に依存していた栽培をより計画的かつ理想的に行うことが可能となるためです。植物工場で生産される野菜そのものは決して特別なものではなく、これまでに流通している水耕栽培野菜のものと変わるものではありません。ただ、植物工場の野菜は、環境を植物に合わせて細かく調節できるため、理想的な条件で育てられた野菜ということができます。この章では、植物工場がどのようなものか、そして今どのような研究がなされているかについて、説明していきましょう。

 

2-1-(1). 植物工場の特徴

植物工場の特徴は、CO2 濃度や気温、湿度、養分など植物が生長するための環境を整えることで、植物の生育を最大限まで高めることができるということ、閉鎖あるいは半閉鎖空間で栽培するため季節や天候に左右されない計画的な生産が可能になることにあります。レタスなどの葉菜類は、露地栽培に比較して、短い期間で収穫できることがわかっており、生産量が気候に左右されることもないため、電力や水環境が整えばこれまで作物を栽培できなかった地域でも栽培を行うことができます。さらに、蛍光灯などの熱発生の比較的少ない光源を利用することで、多段式の栽培ラックを導入することができます。したがって、植物工場では、単位面積当たりの生産量は露地栽培の場合と比較してはるかに高くなります。また、清浄な空間で栽培を行うため、露地栽培の作物と比較して検出される生菌数も少なく、栄養価としてもビタミンの含有量などで露地野菜よりも優れているという報告もあります。

 

2-1-(2). 2 つのタイプの植物工場

植物工場は大きく分けて2 つに分類されます。1 つ目は完全な閉鎖環境で、太陽光を用いずに人工光源のみで栽培する「完全人工光型」です。もう1 つが温室に近い環境で、太陽光の利用を基本とし、人工光による補光や夏季の高温抑制技術を用いて栽培する「太陽光利用型」です。

完全人工光型では、太陽の光をまったく使わずに栽培を行います。また、光だけではなく、栽培室を密閉構造にすることで、人工的に植物の栽培に適した条件を室内につくり出し、計画的かつ均一的に作物を生育させることができます。光源としては、開発当初は高圧ナトリウムランプなどが用いられていましたが、現在は熱発生の少ない蛍光灯の利用が主流になっています。前述の通り、熱発生の少ない光源を利用することで、栽培ラックを何段も積むことができ、単位面積当たりの生産量を劇的に高めることが可能となります。施設の設計次第では、10 段以上の栽培ラックを導入することもでき、近年では都市部などでの導入も進んでいます。

太陽光利用型は、高度化した温室といえるでしょう。太陽光の利用を基本としていますが、日照量が不足している際に高圧ナトリウムランプなどの光源で補光を行う施設もあります。太陽光利用型では、葉菜類だけでなく、イチゴやトマトの栽培施設の実用化も進んでいます。栽培に太陽光を利用できる一方、多段式の栽培ラックは使用できないため、生産量を確保するためには広大な敷地が必要となり、またイニシャルコストも大きくなります。そのため、都市部ではなく郊外での導入が主流です。また、夏季には直射日光による高温を防ぐため、天窓などを開いて外気を取り入れる場合があります。そのため、一部の太陽光利用型の施設では農薬の使用を余儀なくされるところもあります。

どちらの方式についても、清浄で均一な環境を保つため、病害虫の侵入には細心の注意が必要となります。特に、昆虫類は食害を起こすだけでなく、ウイルスや植物病原菌を媒介する可能性があるため、多くの施設では二重扉やエアシャワーなどを導入し、昆虫類の侵入を可能な限り防ぐ対策を行っています。

植物工場の二つのタイプ
植物工場の二つのタイプ

 

2-1-(3). 主要品目と生産パターン

現在、完全人工光型植物工場で栽培されている野菜は、その多くがリーフレタスやサラダ菜、サンチュ、小松菜、ハーブ類といった葉菜類です。ジャガイモやイネといった穀物についても、水耕栽培で育てることができますが、これらは光合成産物を蓄積させる必要があるため、現在の技術では人工光のみで生産するには採算性を確保することは難しいとされています。これに対し、レタスなど、元来冷涼・弱光な環境を好む葉菜類は、10,000 ルクス程度の光量でも十分で、国内の植物工場で育てられています。一方、太陽光利用型の植物工場では、トマトやイチゴ(それぞれ70,000 ルクスおよび50,000 ルクスの光量が必要)などの栽培も行われています。

露地栽培と比較して、その生産手法は比較的軽作業といえるでしょう。完全人工光型植物工場でのリーフレタスやサラダ菜などの葉菜類の生産パターンを例として見てみましょう。生産工程は大きく3 つに分かれます。最初の工程は播種(種まき)です。水耕栽培の場合は、切り込みが入ったウレタンマットなどに水を含ませ、種子を1 つ1 つ切り込みに入れていきます。種子が水分を吸収すると、2 日程度で発芽します。そのまま、本葉がウレタンマットから顔を出すまで4 ~ 6 日程度栽培します。次に、ウレタンマットを差し込むことができる穴が等間隔に開いた、発泡スチロールのパネルを準備します。パネルには2 種類あり、数cm 間隔でウレタンを差し込める穴が開いたもの、10 数cm 間隔で穴が開いたもので、前者は育苗に、後者は本栽培に使用します。播種後、芽が出たウレタンを、これらのパネルに移植して水耕液に浮かべ栽培していきます。

播種の次は、育苗です。発芽後しばらくの苗の生育は、数cm 間隔で穴が開いた、育苗用のパネルを用いて行います。最初から間隔の広いパネルを使用すると、スペースの利用効率が落ちてしまうためです。また、生育速度の遅い株や不良の株を、この段階で取り除くことができます。

育苗用のパネルで葉が重なるようになると、株同士がお互いの生長を阻害してしまいます。そこで、最後の工程となる本栽培に移ります。生育のよい株を選び、10 数cm の間隔で穴が開いた本栽培用のパネルに移します。この後は、そのまま収穫まで生育させることができます。

品種によって栽培にかかる期間はさまざまですが、サラダ菜を例にとると、播種から発芽までに1 週間程度、育苗に2 ~ 3 週間、本栽培に2 ~ 3 週間の期間で収穫を迎えます。育苗まではスペースは大きく使わないので、本栽培にかかる期間だけを考慮して、「年間17 毛作」という計算をする方もいます。

水耕栽培では、作業を行う高さを施設の設計時に調節できるので、腰をかがめたり、しゃがみこんだりといった体に負担のかかる作業は発生しません。また、パネルの移動も比較的容易で、一定の場所で作業を続けることができます。水耕液の導電率(EC)、pH、溶存酸素量、液温や室温、湿度、CO2 濃度などは常にモニタリングされており、適切に調節がなされているか、常時確認することができます。

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